Yocto よもやま話 第 15 回 「Yocto 5.0 Scarthgap リリース」

2025 年 06 月 03 日   Yocto Project よもやま話

2024 年 4 月 30 日、Yocto Project として 3 番目の LTSとなる Yocto Project 5.0 Scarthgap リリースがアナウンスされた。

They say "Mind the gap!" We say "Scarthgap!"（人は「gap に気をつけろ！」と言い、我々は「Scarthgap」と言う）の掛け声とともにリリースされた Scarthgap だが、由来となったのはイギリスのウェールズ地方のカンブリアにある山の名前。カンブリア紀の由来になった地域でもある。

目次

1. Yocto 5.0 で新規に追加・拡張された機能
2. SBOM 生成がデフォルトに
3. 今後のサポートに関して
4. 構築してみた
5. 本リリース情報の参照元

1. Yocto 5.0 で新規に追加・拡張された機能

1.1 基本ソフト

kernel

デフォルトカーネルは Linuxx-6.6（LTS）。
現行の Linux の LTS とバージョンを合わせることで関連を強化している。
対応する OLDEST_KERNEL は linux-5.15。

gcc 13.2

gcc 13.2

glibc

glibc 2.39

その他

300 以上のレシピがアップグレードされた。

1.2 機能拡張

多言語対応

1. VSCode との統合

oe-init-buildenv で VSCode とその「Yocto Project Bitbake」拡張の初期設定 (.vscode) の生成が可能に。

2. Rustへの対応の改良

Rust がバージョン 1.75 にアップグレードされた。
Rust プロファイラ（PGO）オプションが有効になった。
Rust の oe-selftest が有効になった（mips32 を除く）。

3. Go への対応の改良

Go がバージョン 1.22.2 にアップグレードされた。
recipetool の create に Go のレシピを作るハンドラが追加された。

4. Python3 がメジャーに

Python2 が削除され、Python3 がメジャーになった。

セキュリティ対応

1.CVE 対応

NVD からの CVE データベースのインクリメンタルダウンロードが可能に。

2.DISTRO=pokyが非推奨に

Yocto5.0 では poky を実運用に利用しないようにするため警告が表示されるようになった。
DISTRO デフォルト値の poky は、テストと開発目的のためのリファレンスディストリビューションとしてのみ利用してほしい。
poky ディストリビューションではほとんどのハードウェアとソフトウェアをテストできるが、これを実用すると攻撃対象として非常に大きくなってしまう。
セキュリティの観点から、実運用では poky ではなく独自のディストリビューションを利用してほしい。
Yocto5.0 では poky を利用した際に開発者のログイン時に警告が表示されるようになった。

アーキテクチャ対応

RISCV64 が追加された。

対応ディストリビューション

Yocto5.0 が対応するディストリビューションは以下。

• Ubuntu 20.04 (LTS)
• Ubuntu 22.04 (LTS)
• Fedora 38
• CentOS Stream 8
• Debian GNU/Linux 11 (Bullseye)
• Debian GNU/Linux 12 (Bookworm)
• OpenSUSE Leap 15.4
• AlmaLinux 8
• AlmaLinux 9
• Rocky 9

Ubuntu について付記すると、Yocto4.3 で追加された Ubuntu22.10 は Yocto5.0 で対象外になった。

• Ubuntu 18.04 (LTS)
Yocto5.0 のテストはしている（ただし Ubuntu 提供元がアップデートしていない）
• Ubuntu 20.04 (LTS)
Yocto5.0 対応
• Ubuntu 22.10
Yocto4.3 で対応となったが 5.0 では対応外
• Ubuntu 23.04
Yocto5.0 のテストはしている（ただし Ubuntu 提供元がアップデートしていない）

その他

2. SBOM 生成がデフォルトに

Yocto Project 3.4 で導入された create_spdxは4.3 で標準となった。その流れを継続した Scarthgap は SBOMを 作成するタスク create_spdx が標準搭載された初めての LTS である。
create_spdx で作成された SBOM は、/tmp/deploy/images ディレクトリ下に zst 形式で保存される。

3.今後のサポートに関して

LTSとして4年間、2028 年 4 月までサポートされる。

4.構築してみた

core-image-sato で構築したプロジェクトを runqemu で実行してみた。以下が実行時に表示された画面。

5. 本リリース情報の参照元

Yocto Project Release Information Release 5.0(scarthgap)